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ワールドネバーランド~ククリア王国物語~のプレイ日記を中心に日々の出来事などをつづります。
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    ブログ初心者の管理人によるククリア中心の日記です。 LINKはフリーです。 ですがご連絡頂ければ貼り返しさせて頂きたいですw
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    小話2(彼女の場合)


    エドワードとマルティナちゃんのお話です。
    時々ちはるも。

    ちょっと暗い&失恋話で長いです。(でもタイトルは小話)
    この話の時点ではハッピーエンドではないです。

    マルティナちゃんと話す時、エドワードは敬語なので、話中のエドワードはほとんど敬語です。

    よろしければ、続きからどうぞお進み下さいませ…!><












    恋愛はいつだって、先手必勝。
    行動力が物を言うの。
    自分がモタモタしてたせいで恋人を取られたなんて、そんなの誰も知ったこっちゃない事だわ。
    そんなの自分が悪いに決まってるじゃない。
    だって、恋はいつも弱肉強食なんだから。



    (~彼女の場合~)



    あたしのタイプは、年上の人。
    知的で、素敵な大人のヒト。
    そのタイプを全部満たしてくれる、あの人に出会ったのはいつだったかしら。
    あたしはすぐに行動した。話せば話すほど、彼は素敵な人だった。
    シズニ神官の役目を実直にこなす、部屋にはたくさんの書物。
    その静かな空間で、2人過ごすのが好きだった。

    彼から、神官の引き継ぎを考えていると話された時、あたしは幸せだった。
    あたしとの将来を……未来を考えてくれているんだと、信じていた。
    順風満帆な恋愛。

    フェルタ祭で披露される劇。その候補に選ばれたのは、そんな時期だった。

    はっきり言ってしまうと、あたしは異性に人気がある。
    仲のいい男性は片手の指じゃ足りないし、毎日声をかけられる。
    一般的に見て、社交的なこの性格が良いのだと思う。
    声をかけられて、嫌な顔をした事はないし……でも、その代償として、特に親しい同性の友人はいなかった。
    でも、あんまり気にした事はなかったわ。
    一般的に、あたしみたいなタイプは、異性には好かれるけど、同性からは嫌われる。
    そういうものだもの。あたしには、彼さえいてくれれば、それで良かったの。

    だから、あの子に声を掛けられた時は正直、驚いた。



    「素敵でした!」
    あの子は、目をキラキラさせて、満面の笑みで、そう言った。

    劇の主役を決める投票日。
    舞台上でのパフォーマンスを終えての帰り道。
    見知らぬ女の子に声を掛けられた。

    茶色のくるくるした髪、柔らかそうで、暖かい色。
    キラキラした子供っぽい目と合わさって、子ラダみたいだった。
    舞台上での、あたしのパフォーマンス。
    「投票してね☆」な~んて、完全に異性受けの行動。今まで女の子から良いイメージを持たれるなんてなかったのに。
    それを見て、その子はあたしを追っかけてきたらしかった。

    ” とっても素敵で、可愛らしかったです ”

    そう言うと、小動物さながらの素早さで、走って行ってしまった。

    あたしはただ、ぽかんとして、その後ろ姿を見送った。
    なんなの……?それが正直な感想。じわじわと胸が熱くなった。
    でも、追いかけはしなかった。
    ただ、ちょっと変わり者の女の子との、つかの間の出会い。
    普通なら、それだけで終わる出会いだった。

    彼女が移住者で、空き家だったあたしの隣家に引っ越してきた事を知ったのは、それからすぐの事だった。


    ” ちはる・春宮 ” 後の、あたしの生涯の親友。




    *****





    「マルティナさん!おはようございます!」
    朝、家を出ると、ここ最近で恒例になった挨拶が掛けられた。
    目線を向けると、これもここ最近で見慣れた、転がるようにあたしに駆けよってくるちはるの姿があった。
    「おはよう」
    自然と笑みがこぼれる。不思議な感覚。
    でも、ちょっと眉を寄せる。さっきのちはるの言葉に、聞き逃せない部分があった。
    「ちょっと、ちはるちゃん。さん付けはやめてって言ったでしょ」
    「えっ!?あっ!……でも」
    言い淀むちはるに、ある言葉を使って畳み掛ける。
    「あたし、” 友達 ”にさん付けされるなんて、悲しいわ」
    「……!マ、マルティナさん!今!」
    (ま~た、” さん ”付けしたわね……?)
    じろりと睨むと、ちはるは慌てて言い直した。
    「マ、マルティナ……ちゃん」
    「よろしい」
    にこっと笑ってみせると、ちはるも笑い返してくれる。

    あの出会いから時間が経って、あたしとちはるは友達になった。

    ちはるはあの日から数日前にこの国に来たばっかりの移住者で、別にあたしがご近所さんだったから声をかけてきたわけではなかったみたい。
    あの翌日。玄関を出たところでバッタリ。
    あの慌てっぷりと隠せてなかった喜びからして、本当にあたしが隣家の住人だって、知らなかったのね。

    いつもだったら、話しかけてこられたって、軽くあしらえるのに。
    この子の子供みたいな目と、体から溢れるあたしへの好意が、それをさせてくれなかった。
    ……はぁ。あたしにも、母性本能ってあったのかしら……。

    隣のちはるは、ここ数日そうだったように、ご機嫌だった。
    少し上気した頬に、確信する。
    「なぁに?今日もデートなの?」
    「うん!」
    「ここ最近毎日ね~」
    「えへへ~」
    まったく。
    嬉しそうな顔しちゃって。

    ちはるには、大好きな恋人がいる。
    ファビウス・テルフォード君。
    ……まあ、名前と顔は知ってたわ。女の子達が騒いでたのを、小耳にはさんだだけだけど。
    深い赤の髪に、整った顔立ち。人気はあったけど、釣りばっかりしてて、話しかけづらい独特の雰囲気の彼。
    今まで浮いた噂も聞かなかった。
    あたし?あたしのタイプは知的で素敵な大人のヒトよ。年下なんて興味ないの。
    そう言ったら、ちはるは明らかにほっとした顔で、
    ” だって、マルティナさんが相手なんて勝ち目ないもの。それに、大好きな友達と、ライバルなんて、嫌だもんね ”
    照れた顔で、そう、言ったのよ……?

    不覚にも、ときめいてしまったわ。

    あたしって、同性の好意に対する抗体が少ないのよね。

    城門前で、ちはると手を振って別れる。
    いつまでもこっちを見ながら手を振ってるから、ぶつかるんじゃないかと心配してたら、庭園内で背の高い赤毛の男の子にぶつかってた。
    男の子に怒られるちはる。
    あらら……とため息をつく。フォローを入れようかと思ったけど、じゃれはじめた2人に踏み出しかけていた足を止めた。
    なんだ、知り合いなんじゃない。心配して損しちゃったわ、なんて思いながら踵を返す。

    あの2人、子ラダと兄ラダみたいだったわね。

    その時のあたしの、その男の子に対する認識は、そんなものだった。





    *****





    ここ数日、ちはるの姿を見ない。
    代わりに、金髪の女の子と一緒にいるファビウス君の姿をよく見かけるようになった。

    ちはるの家の前に行くと、微かだけど、ヒクつくようなあの子の声が聞こえた。
    ああ……そういう事。

    黙って、来た道を戻っていく。

    同情なんてしない。
    だって、恋は弱肉強食だもの。

    それに、あたしと目が合ったファビウス君の顔。
    何か気にかかっているみたいな、尋ねたそうなあの目。
    正直、腹立たしい気持ちはある。
    そんな目をするなら、何故あの子を傷つけたの。

    ちはる。
    あなたはいつまで泣いてるの?
    あなたにだって、原因はあったんじゃないの?
    その後悔が、今の涙に込められているのなら――諦めなければ、希望はあるんじゃないかしら。

    だから、あたしは手なんか差し伸べない、慰めない、同情なんてしない。
    恋の神様は、いつだって、行動する者に微笑むの。
    誰かが背を押してくれるなんて、そんな期待、捨てなさい。
    そんなお人好し、めったにいやしないんだから。
    自分で立ち上がらなきゃ。





    *****





    翌日。

    公衆浴場に足を運んだ帰り道。
    ちはると、あの背の高い男の子がいた。

    男の子は、ちはるの背中を勢いよく叩いて、一言笑顔で。
    「元気だせ!」

    ……お人好しがいたわね。
    ちはる、咳込んでるけど。
    「エドワード……!」だって。

    ふうん。あの子エドワードっていうのね。
    お人好しの男の子。

    泣きそうな顔のちはるが、あの日みたいにエドワード君に絡んでいった。
    彼も、なんだか嬉しそうな顔。

    異性親友って、存在しないと思ってたけど、ホントにいるのね。
    その日は、その光景を横目に見ながら、家への道を帰った。





    *****





    しばらくして、また、ファビウス君と一緒にいるちはるを見かけるようになった。
    以前のように、恋人同士ではないようだけど。
    友達から、もう一度頑張ろうなんて、まあ、やるじゃないあの子。
    まあ、ファビウス君に対しては、二度目はないわよ?とだけ言っておくわ。
    あたしがそう宣言したのに、ファビウス君は、ただ静かに微笑むだけだった。
    ほんとに、掴み所のない子。

    ……でも、幸せそうなちはるとは反対に、あたしの恋は、上手くいってなかった。

    彼が、あたしじゃない女の子と、一緒にいるという話しをよく耳にするようになった。
    あたしも、彼じゃない男の子に誘われて出かける事が多くなって、会う機会が随分と減った。

    あの日は、農場で偶然ちはると会って、飲みにでも行こうか。なんて話しながら歩いていた。
    突然ちはるが前を見たまま足を止めて、気になってその視線を辿ろうとしたら、強く腕を引かれて、方向転換させられた。
    犯人はちはる。
    あの子は、あたしの腕をぎゅうっと強く握りしめて、笑顔で、「やっぱり、マルティナちゃんの家で話ししよう!」なんて言って。
    ヘタな演技。

    方向転換させられる前、あたしの視界をかすったもの。
    彼の後ろ姿と、隣に寄り添う女の子の姿。

    強くあたしの腕を引っ張る姿。
    あたしにあの光景を見せたくないのだと、すぐに分かった。

    でも、ねえちはる。
    こんな事、してくれなくていいのよ。
    あたしは、あの時、泣くあなたの声を聞きながら、何にもしなかったんだから。
    恋は弱肉強食。
    この光景は、あたしのせい。あなたは、関係ない

    それなのに、何であなたは泣くのだろう。
    あたしの腕を握りしめながら、早足で歩きながら、きっとあたしには隠しているつもりなんだろうけど。
    腕を握る、ちはるの手に、あたしの手を重ねた。
    ……ほんの少しだけ、あたしも泣きそうだった。





    *****





    「マルティナさん、明日遊びに行きませんか?」
    「いいわよ」
    あたしの返事を聞いたエドワード君は、ビックリした顔で固まってる。
    ……ちょっと、その反応は失礼なんじゃないの?あたしが了解するのがそんなに意外?断った方が良かったかしら。
    そう聞いたら、エドワード君はぶんぶん首を左右に振った後、満面の笑みになった。
    「嬉しいですよ!」
    ……なんだかちはるを思い出すわ。
    この2人って、あたしは似てると思うんだけど……そんな事言ったら、ちはるは怒りそうね。

    エドワード君の誘いにOKしたのに、これといって理由はなかった。
    ただ、ちはるとの会話にファビウス君並に登場してくるエドワード君に、少なからず興味があったのも事実。
    何しろちはる曰く、 ” 働かない ” ” 女の子大好き ” ” いっつもふらふらしてる ”  の3拍子。
    そんなにズタボロの評価なのに、エドワード君の話しをするちはるはすごく楽しそうなのよ?それって、結局はエドワード君が嫌いではないって事なのよね。

    彼が、先日恋人を亡くした。という事も知っていた。
    危篤者の知らせは、嫌でも耳に入ってくるし、その危篤者がエドワード君の恋人だったという話は、後でちはるから聞いたのだけど。
    恋人を亡くしてから暫く、エドワード君を心配したちはるは、普段より頻繁に彼の様子を見に行っていたようだった

    でも、今こんなに満面の笑みを浮かべているという事は、無事立ち直ったという事なのかしら……。
    目の前のエドワード君を見上げながら、あたしは、そんな事を考えていた。





    *****





    ちはる曰く、 ”だめんず” なエドワード君。
    その評価が間違いではないと、ここ数日であたしは感じている。

    彼はよく話しかけにきてくれる。朝・昼・夜のあいさつはもちろん、何気ない会話をして去っていく時もあったわね……。
    これがあたしに対してだけなら、ただのマメな人、で終わるんだけど。彼はどうやら他の女の子にも同様に声を掛けまくっているらしい。
    まあ、異性関係に関してはあたしも人に説教できる立場ではないし、そもそも恋は弱肉強食。最良の相手を探して行動的になるのは間違っていないと思うわ。

    ただ……1日のうち、彼が女の子に声を掛けている時間の割合を考えると、どう考えてもそれ以外に使う時間が無さそう……つまり、仕事してないんじゃない?って事になっちゃうのよねぇ。

    エドワード君、ちゃんと生活できてるの?
    まあ、あたしには関係ないけれど……。





    *****





    朝の大通り東。
    あたしはバズサンドの入ったバスケットを抱え、西へ向かっていた。
    ……どうしてあたしは、こんな時間にこんな事をしているんだろう。
    昨夜から続く自問自答。

    ただ、昨日市場でさんざんハールの前で悩んだあげく、何も買わずに帰っていくエドワード君が……あんまりにも落ち込んでいたものだから、ちょっと差し入れでもしてあげようかしら、と思ったのよ。
    エドワード君の懐事情に大いに不安を覚えつつ前を見ると、視線の先に当のエドワード君を見つけた。
    彼の家はラナン区だから、この時間にここにいるなんて。ホントの早朝に家を出たという事になる。
    もしかして、あたしに会いに来たのかとも思ったけれど、彼の足は高台の方へ向かおうとしている。

    気になって見ていると、正に高台への道へ曲がろうとしていたエドワード君がこちらへ顔を向けた。目が合う。
    彼の目が輝いたように見えたのは、きっと見間違いではないはず。

    「マルティナさん!おはようございます!」
    「おはよう、エドワード君」
    にっこり笑顔で返すと、エドワード君は満面の笑みを返してくれた。
    ……あら?何かしら、このデジャヴ感。

    突然のことに、手にしたバスケットを隠す暇もなかった。
    当然エドワード君は、あたしの抱える物に気付く。

    「マルティナさん、それどうしたんですか?」
    ……まあ、渡すのが早まっただけよね。
    あたしはエドワード君にバスケットを差し出した。
    「エドワード君に。言っておくけど、味は保証しないわよ」
    「え、えええ!?俺に??それに味って……もしかして食べ物ですか!?マルティナさんの手作りの…!?」
    「市場でのあんな姿見ちゃったら、放っておけないわ」
    途端にエドワード君は、バスケットに伸ばしていた手を止めて、バツが悪そうに視線を逸らしてしまった。

    「うっ…昨日の…見られてたんですね」
    「ええ。ところで、エドワード君はこんなに朝早くからどこへ行くの?」
    「ああ!えーと……そうだ!良かったらマルティナさんも一緒に来てくれませんか?」
    「え?あたしも?」
    「はい!それで、俺の用事はすぐ終わるので、その後一緒にバスケットの中身を食べてもらえませんか?学校の裏に良い場所があって…」
    ……今日は早起きしたから時間に余裕はあるし、珍しく遊びに行く約束もなかったはず…。

    「いいわよ」
    「やった!じゃあ、行きましょう。こっちです」
    また満面の笑みになったエドワード君は、高台に向かって歩き出した。
    その彼の横について歩く。
    こんな早朝から、彼が行こうとしているのは一体何処かしら…と考えながら。





    朝靄に包まれた墓地。
    普段から静謐で、重苦しい空気の漂うそこで、エドワード君はどこか浮いているように見えた。
    彼は、とても生命力に溢れた人だもの。

    早朝の今、この場にいるのはエドワード君とあたしだけだった。
    静かな墓地の中、彼とあたしの足音だけが響く。
    迷いなく足を進めていたエドワード君が止まったのは、墓地の隅に立ち並ぶ墓石の中でも、真新しいそれの前だった。

    《  セシリャ・クラフ
       115年 ~ 141年  》

    ただ、シンプルにそれだけが刻まれていた。
    「ここ……」
    「セシリャの墓です」
    エドワード君は、墓石の前に跪き、手を祈りの形に組んだ。
    大きなその背を丸めて…彼の表情は見えなかった。

    セシリャというのは、先日亡くなった彼の恋人だったわね…と考えて、何故彼はあたしをここまで連れてきたのだろうかと思った。
    別に、本気で付き合っているわけではないけれど…仮にも今現在遊びに行くような関係の女性を、元彼女のお墓参りに付き合わせるなんて、彼女にも、あたしにも配慮が足りないんじゃないかしら…。

    しばらくの間、あたしはバスケットを抱えながら、祈るエドワード君の背中を見ていた。
    祈り終えたのか、あたしの視線が痛かったのか、ふっと顔を上げたエドワード君はあたしと目が合うと、ちょっと照れくさそうに笑った。

    「マルティナさん、何で俺があなたにここまで付いてきてもらったのか、って思ったでしょ?」
    ……図星なので何も言えないあたしに、エドワード君はポツポツと話し出した。


    「ここは、この前逝ってしまった、俺の恋人だった人の墓です。...セシリャは、俺の家の近所に住んでいて……とても陽気な人でした。俺が知っている随分昔から一人でいて、もしかしたら過去に恋人がいたのかもしれないけど、俺は知りません。明るい彼女に懐いていた俺は、子供の頃からよく遊びに行っていて、俺が成人してしばらく経ってから付き合い始めました…」

    過去を懐かしむように、柔らかく目元を緩ませて、彼はどこか遠くを見ているみたいだった。

    「そりゃあ、大分と歳は離れてましたけど。笑うと深くなる目尻に刻まれた皺も、光に照らされて銀に輝く白い髪も、全部セシリャが歩んできた人生の宝物で……俺はそんな彼女が好きだったんです。でも、…一緒に出かけるのはいつも劇場や、果樹園でした。セシリャはデートになると俺の言葉を躱すばっかりで、応えてはくれなかった。俺は、彼女から好かれてないのかも、なんて思ってました」

    「だけど…」

    「違いました。今年になって、セシリャは体調を崩す事が多くなりました…ついにベッドから起き上がれなくなった時、立ち尽くす俺に、笑って」



    ”……エドワード。私は…家庭を持つ事は出来なかったけれど、後悔はしてないわ”

    ”昔はね、結婚しようって人もいたのよ?でもねぇ…上手くいかなかったの”

    ”その人に、他に好きな人ができちゃって、フラれちゃったのよ。婚約直前だったのに…酷いでしょ?”

    ”落ち込んで……落ち込んで……笑顔の奥でドン底まで苦しんで……そんな時にあなたが現れたの”

    ”あなたってば、小さい頃から変わらない……賑やかで、いつも走り回ってた…成人したあなたは私に
    告白してくれて、こんなおばさんにって、最初はねぇ…戸惑ったけど”

    ”そうね、あなたとなら、良い家庭を築けるかも…って思った事、何度もあったわ…。でも…”



    ”……エドワード、あなたは、…優しい子ね。明るくて、まっすぐな心と、力で、誰かを救ってあげられる人だわ。暖かな…あなたは、私…の、太陽だった……ドン底から救い上げてくれた光だったの…だから”


    ”今度は、違う誰かを助けてあげて。見た目だけみてちゃダメよ? 本当に、苦しい人は、人前では涙は見せないの、心で泣いてる…”



    ”そして、あなたが……本当に、愛して、幸せにしてあげたい人と、幸せになってちょうだい…”




    「この国では、一度婚姻を結ぶと例え相手を亡くしても、再度の婚姻は認められませんから。その制度が悪いとは思いません、でも、セシリャは……自分との婚姻が、彼女を亡くした俺の邪魔になると思ったんですね」

    「セシリャの葬儀には出られませんでした。近くまで来て、引き返した……葬儀中、一晩中、しばらくの間、家にこもってずっと考えてました。俺は、これからどうしたいのか」

    「そうしたら、ちはるの奴が五月蝿くて。何度も何度も家に来て、元気だせーって。下手くそな料理押し付けてきて…あいつ、あの腕で結婚とか大丈夫なんですかね?……っと、話が逸れましたけど」

    「それで、まあ、頑張ろうって気になってきて。最初はセシリャが言ったみたいに、誰かのために、できる事をやろうかなーと、うじうじしててもセシリャにどやされるだけだろうな、と思ったので」
    あいつらも俺がいないと駄目だろうし!と彼は笑った。

    それで…と彼はあたしを見た。
    少し迷ったみたいだけど、顔を赤くしながら一息で言い切った。

    「あなたと会ったんです」

    「今日、一緒に来てもらったのは、セシリャに報告したかったからです。” 俺の幸せ ” 見つけたぞ!!って」

    ” だから、どうかよろしくお願いします!! ”
    そう言ってエドワード君はあたしに頭を下げた。
    ……あたしは、一気に得た情報に頭が混乱して。
    固まっていたらエドワード君が顔を上げた。

    そしてもう一度だけセシリャさんのお墓に視線を向けた後、
    「じゃあ、付き合ってくれてありがとうございました。…行きましょうか!」
    お墓に背を向けて歩き出した。
    あたしは一拍置いて、恐らく学校の裏に行くのであろうその背中を追いかけた。

    墓地を覆っていた朝靄は、すっかり晴れていて

    最後に振り返った彼女の墓石は、朝日の中で銀に薄く輝いていた。





    *****






    「マルティナちゃんって、仕事好き?」
    「そうね」
    「仕事出来る人って格好良いもんね!」
    「……出来ないよりは出来た方が良いでしょうね」

    ――その翌日。仕事場に行くとエドワード君が釣りざお片手に張り切っているという話しでもちきりだった。

    あたしは、素知らぬ顔でニゴの種を買うと、畑へ向かった。
    足が自然と早まる。顔が熱くなるのを感じたけれど、知らないふりをした。

    ちはるは、分かり易すぎる。
    エドワード君は、単純すぎる。

    単純で、純粋で、馬鹿みたいに好意を溢れさせる、ちはるとエドワード君。
    まったく、もう……!本当に似たもの同士なんだから。

    でも、そんな2人が嫌いじゃないあたしも、大分と絆されてきてるわね、なんて思いながら。
    あたしは自然と笑ってた。







    近づく終わりに、気づかないまま。


    *****










    そうね、予感があった。なんて言ったら嘘になる。



    でも、あたし、勘は鋭い方なの。
    人の心の動きにだって、鈍くないつもり。



    だから、




    ──────こんな日が、いつか来るって分かってたわ。


    教会で、あたしは立ち尽くしていた。

    彼が、既に神職を退いていた事も、あたしと彼の関係がもうどうしようもなかった事も。

    ……彼が、もうあたしを愛していない事も知ってた。



    彼が、婚約した。
    教会の欄には、彼と、あたしじゃない女の子との名前が並んで書いてあった。

    たったそれだけの事で、あたしの手は冷えていく。
    彼に会いに、何度も通ったこの場所で、あたしは一人。

    ジン…とこみ上げるものを堪えた。
    その反動か、心まで冷えて、凍っていくようだった。


    「マルティナさん?」

    ……ああ、どうしてこんな時に。
    振り向かないあたしの耳に、彼の声が響く。

    「マルティナさん、何処に行きたいですか?」

    ” 俺が、連れて行きますから ”


    何処……?ぼんやり、考えた。
    ……人がいない所が良い。
    どうしようもない思いを、ただ一人で、抱え込んでいられる場所。

    「……誰も、来ないところに…行きたい」

    そう言ったあたしの手を引いて、

    「分かりました」

    エドワード君は笑った。
    いつもとはちょっと違って、痛みを堪えて、押し隠したみたいな笑顔だった。
    ……どうして?

    教会を出る。彼に続いて歩き出す。
    行き交う人の視線からは、彼の大きな体が隠してくれた。

    暖かい手、暖かい腕。
    でも、あたしが思い出すのは、” 彼 ”との思い出だった。


    はじめて出会った時の事。
    静かな彼の部屋で、穏やかな時間を過ごした事。
    式を執り行う彼を誇らしく見守った事。
    花畑で、はじめて触れ合った日の事も。



    分かってる。

    この手を、離さなきゃいけない。

    まだ、” 彼 ”を思うあたしには、この腕にすがる資格なんてない。

    エドワード君の思いに、優しさに、その笑顔に、応えられないあたしは。


    ……分かってる、分かってるの。
    冷えた心に染み込む暖かさを、必死で拒絶した。

    でも、


    だけど、


    ごめんなさい……


    (今はもう少しだけ…暖かな、この人の傍にいたい……)







    (終)

















    *******




    長い話に付き合って下さり、ありがとうございます。
    この話の終了時点では、まだマルティナちゃんはエドワードを恋人としては見ていません。
    エドワードからの片思いで終わってます。
    実際マルティナちゃんは、元カレのシズニ神官が婚約した時、まだ本命プレートはエドワードじゃなかったので、こんな感じなのかなぁと思い、こんな最後になりました。

    セシリャさんの葬儀にエドワードが出なかったのは本当で、一瞬だけ(SSも間に合わない位)、墓地に来たかと思ったら、すぐに引き返していってしまいました。
    その背景を考えてみたらセシリャさんとの恋人関係はどんなのだったのか、と想像が広がりまして…。

    この時点でマルティナちゃん13歳、エドワード10歳です。マルティナちゃんが姉さん女房です。
    実際のプレイで、マルティナちゃんはエドワードを置いていってしまいました。

    この時私は子供の顔が確認したくて、早送りしていたのですが、マルティナちゃん危篤の知らせに、頭が真っ白になりました。
    早すぎる…それだけがありました。思わず泣きました。
    悲しくて、見たくなくて、その時は葬儀には出ませんでした。

    その時に、マルティナちゃんは幸せだったかなと思ったのがこの話を考えるきっかけでした。
    私がエドワードの恋を叶えてあげたかったからサポートして2人をくっつけました。
    幸せだったら良いな……そう思って、でも最初はマルティナちゃんはきっとエドワードの事愛してはいなかっただろうな、と考えた時に浮かんだのが、最後の「この手を離さなきゃいけない」のマルティナちゃんの言葉でした。
    この言葉から話を作っていったらこんなに長く……><

    マルティナちゃんが心の中ではちはるを呼び捨てなのに、実際はちはるちゃん呼びなのは出会って間がないからです。
    ファビウスさんとやり直そう、という辺りから実際にちはる呼びになるかなと想像してます。


    婚約する頃にはマルティナちゃんは、きっとちゃんとエドワードを愛してます……とだけ呟いて。

    ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございました!


    か、感想とか……ごふごふ…!拍手だけでも頂ければとっても励みになります(^^
    では、失礼致します。

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